「先生、うちの子、習い事を辞めさせるべきでしょうか?」
私が小学校で担任をしていた頃、保護者の方からこう相談されたことが、本当に何度もありました。
お気持ち、よくわかります。
続けさせたい気持ちと、無理させたくない気持ちのあいだで、ご家庭は揺れますよね。
私は元小学校教員として10年勤めたあと、教育系出版社で編集者を経て、いまはフリーランスの教育系ライターをしています。
今回は、教員時代に出会った児童の中から、特に印象に残っている3人のケースをご紹介します。
学年も習い事も結果も違いますが、3人にはご家庭の判断のヒントになる、共通していた1つのサインがありました。
ケース1:Aくん(小3)スイミング1年で「もう行きたくない」

Aくんがスイミングに通い始められたのは、小1の冬でした。
プール開放日に楽しそうに泳いでいた様子を見て、保護者の方が体験会に申し込まれたそうです。
始めた頃は楽しんで通っていた
最初の半年は、毎週のレッスンを楽しみにしていたといいます。
金曜の夜には
「明日スイミング!」
と、自分から準備を始めるくらいの様子だったそうです。
土曜の朝、バッグを抱えて元気に出かける姿を、保護者の方は今でも覚えていらっしゃるとうかがいました。
進級テストで変わった空気
変化のきっかけは、小2の秋でした。
新しいコーチが厳しめの方で、進級テストに2回連続で落ちてしまったのが、Aくんにはこたえたようです。
3回目のテストの前夜から、本人が泣くようになっていったとうかがいました。
「もう行きたくない」
とはっきり口にしたのは、その3回目の朝のことだったそうです。
3か月の休会という選択
ご家庭が選ばれたのは、退会ではなく3か月の休会という選択でした。
本人と話し合われたうえでのご判断だったそうです。
再開されたのは半年後で、級は据え置きでの再スタート。
「あれは、本人にとって必要な間だったと思います」
と、お母さまが後日教えてくださいました。
Aくんは中学生になった今もスイミングを続けていらっしゃるそうです。
ケース2:Bさん(小5)ピアノ4年目の停滞

Bさんは、年長から続けてこられたピアノに、4年目で陰りが見え始めていました。
4年目で見え始めた陰り
教本の難易度が上がり、家での練習時間も自然と増えていった頃のことです。
登校班でぼそっと
「もうやめる」
とつぶやいていたのを、私はたまたま聞いてしまったのを覚えています。
きっかけは、発表会で隣のお子さんと差を感じてしまった瞬間だったようです。
お母さまにお伝えすると、すでに気づいておられたとのことでした。
半年後に下した辞めるという決断
ご家庭で何度も話し合われた末、Bさんは半年後にピアノを辞められました。
中学に上がってから吹奏楽部に入って、別の楽器で再スタートされています。
「辞めて正解だった」
と母娘でお話していたのを、卒業前の面談でうかがいました。
何かを
「やめる」
ことが、必ずしも後退ではない。
むしろ、別の場所で花開く準備のための一歩になることもある、と教えていただいたケースです。
ケース3:Cくん(小4)続けたいのに親御さんが悩んだケース

Cくんは、これまでの2人とは少し違いました。
本人は英会話を続けたかったのに、月謝と送迎のご負担が大きく、お母さまが辞めさせるべきか悩んでおられたケースです。
家計と送迎というご家庭の事情
きっかけは、ご家計の見直しと、下のお子さんの習い事開始のタイミングが重なったことでした。
どのご家庭にも、お子さん本人の気持ちとは別に、現実的な事情があります。
本人は
「絶対やめたくない」
と言い続けていたといいます。
お子さんの意思とご家庭の事情のあいだで、お母さまも板挟みになって悩まれていました。
スクールを変えるという選択肢
ご家庭が最終的に選ばれたのは、英会話のスクール自体を変えるという選択でした。
料金が抑えられて、駅近で送迎のご負担も減るスクールを探されたそうです。
Cくんは中学に入られた今も、楽しく続けていらっしゃると聞いています。
お子さんの意思とご家庭の事情、その両方を切り離してご判断された結果、両立する道が見つかったケースでした。
まとめ

学年も習い事も結果もまるで違う3人のお子さんですが、共通していたのは
「辞めたい」
「続けたい」
を言葉にする前に、生活のリズムや表情に小さな変化が出ていたことでした。
忙しい朝には、こうした変化はどうしても見過ごされやすいものです。
「辞めたい」
の言葉が出てから決めるのでは、すでにお子さんの中で勝負がついてしまっていることが多いように感じています。
- 朝の身支度の遅れや習い事前日の沈黙に注意を向ける
- 言葉になる前のサインを見逃さない観察の姿勢を持つ
- 辞める・続ける以外の第三の選択肢(休会・スクール変更)も検討する
言葉になる前に、ご家庭の中ではすでに何かが起きている、という視点を持っておかれると、お子さんのちょっとした変化に気づきやすくなりますよ。
そのほんの少しの
「気づく余白」
が、ご家庭にとってもお子さんにとっても、よい判断の入り口になっていくはずです。